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海外文献紹介

Training and Bioenergetic Characteristics in Elite Male and Female Kenyan Runners
BILLAT,V,.P.-M.LEPRETRE,A.-M.HEUGAS,M.-H,LAURENCE,D.SALIM,and J.P.KORAL SZTEIN.
Med. Sci. Sports Exerc., Vol.35, No.2,pp. 297―304,2003.

文献リンク
 

<はじめに> 女性長距離ランナーの骨密度が低いことは、これまでに多く報告されてきた。男性ランナーにおいても骨密度が低いという報告はいくつかあるが、女性におけるこの問題ほど深刻に扱われていない。この研究では、男性と女性の骨密度を比較することを目的とした。

<方法> 対象は、109名の最近3年間定期的にトレーニングをしている長距離ランナー(男性44名・女性65名、19-50歳)とした。DXA法にて第2-4腰椎と股関節の骨密度を測定した。また質問紙にてトレーニングおよび月経状況を調査した。

<結果・考察> 腰椎の骨密度をt-score(;健常若年者の標準値との比較)で評価したところ、男性ランナー(-0.8±0.8)と女性ランナー(-0.8±0.7)に差異は認めなかった。股関節の骨密度のt-scoreも男性ランナー(0.6±7.9)と女性ランナー(0.5±9.2)に差異は認めなかった。腰椎の骨密度が低い(t-score <-1.0)男性ランナーと女性ランナーを比較すると、男性ランナー(-0.8±0.7)の方が女性ランナー(-0.4±0.7)よりも低い値を示した(p=0.03)。このことより、女性ランナー同様、男性ランナーも骨量低下の問題に直面していることが確認された。

無月経(-1.4±0.7)および経口避妊薬服用中(-1.1±0.5)の女性ランナーは、正常月経(-0.4±0.7)の女性ランナーよりも腰椎の骨密度のt-scoreは低かった。近年、ピルが骨量低下を防ぐという見解もあるが、今回の結果からはその真相は不明であった。

週間走行距離と腰椎の骨密度との間には、月経の状況如何に関わらず、弱い負の相関を認めた(男性r^2=0.267、女性r^2=0.189、p <0.001)。これは、走行距離が長くなるほど必要となるエネルギー量を食事で摂取できていないと、骨形成を促す成長ホルモンなどの分泌が抑制され、骨に蓄えている成分をエネルギーに変換しているためではないかと考えられた。また、週2回以上筋力トレーニングを併行しているランナーの方が、男女ともに、腰椎のt-scoreは高い値を示した。ウエイトリフティング選手の腰椎の骨密度が高いという報告があるように、筋力トレーニングはランニングだけのトレーニングとは異なる負荷を骨に及ぼしていることが推察された。

重回帰分析を行うと、女性の腰椎のt-scoreを予測する因子として走行距離(-)・BMI(+)が、股関節のt-scoreを予測する因子としてBMI(+)が検出された。男性では、腰椎のt-scoreを予測する因子として走行距離(-)・トレーニング期間(-)が、股関節のt-scoreを予測する因子としてトレーニング期間(-)が検出された。

<まとめ> 本研究より、男性ランナーにおいても女性ランナーと同様に、腰椎の骨量低下という問題に直面していることが明らかになった。さらなる検証が必要だが、定期的に筋力トレーニングを加えていくことが骨量低下の予防対策につながるかもしれない。

≪コメント≫ これまで骨密度の低下の原因として、女性ホルモンの影響が数多く報告されてきたが、本論文では性差だけでなく、現場で容易に利用可能な指標を用いてのメカニカルストレスの量に注目していること点で興味深いものであった。骨粗鬆症予防の観点から、若年期に骨密度のピーク値を高めること・壮年期に骨密度低下を滞らせることが考えられている。

骨密度のピーク値を高める手段として、若年者の抗重力位での運動(ランニングなど)が推奨されている。これは、海綿骨の多い長管骨(脛骨や大腿骨)では有効性が証明されているが、皮質骨の多い腰椎などでは効果を得難い。高齢者で骨粗鬆症由来の骨折で最も多い部位の一つに腰椎が挙げられており、腰椎の骨密度のピーク値を若年期から高めることが求められる。一方、骨密度を高めるために推奨されている抗重力位の運動であるにもかかわらず、ランナーで骨量が低下することも現実問題である。これは、本論文で、腰椎の骨密度と走行距離との間に負の相関があるように、overuseの影響が考えられる。現場で判断の難しいoveruseの指標として骨密度を使用できる可能性も考えられる。

(北里大学東病院リハビリテーション部 隅田祥子)