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海外文献紹介

Effects of exercise and training in hypoxia on antioxidant/pro-oxidant balance.
Pialoux V, Mounier R, Ponsot E, Rock E, Mazur A, Dufour S, Richard R, Richalet JP, Coudert J, Fellmann N.
Eur J Clin Nutr. 2006 Dec;60(12):1345-54.

文献リンク
 

多くのアスリートが高所や低酸素トレーニングを取り入れているが、その効果についてはまだ定まっていない。1990年代には、“リビング・ハイ-トレーニング・ロー”(低酸素下で生活し、基準気圧(海面上の気圧)下でトレーニングする)“リビング・ロー-トレーニング・ハイ” (基準気圧下で生活し、低酸素下でトレーニングする)といった新しいトレーニング法が考案され、その有効性について検討されている。運動は、活性酸素種を発生させ、生体分子に様々な酸化的ダメージを与える。また、低酸素状態もフリーラジカルを発生させて酸化ストレスをもたらすことが示されている。したがって、低酸素下での運動は、両者の複合作用により酸化的ダメージを一層増大させると考えられる。

14人の長距離ランナーを対象として、まず基準気圧下(normoxia)と基準気圧下の低酸素(normobaric hypoxia:以下hypoxiaと表記、高度3000mに相当する酸素濃度)での自転車エルゴメーターによる最大運動テストを実施した。さらに、normoxiaとhypoxiaでトレッドミルによる最大運動テストを行い、トレーニング強度の目安となる換気性作業閾値(VT)速度を決定した。トレーニングは、normoxia群(n=6)とhypoxia群(n=8)に分けて、週2回ずつのVT速度での持続走(32±8分)と60分間走(80%VT)からなる持久性運動を、6週間にわたり実施した。その結果、運動による酸化ストレスはnormoxiaで変化しなかったが、hypoxiaで増大した。Normoxiaで変化しなかったのは、これまでに報告された鍛錬者が高い抗酸化能をもつことを根拠に、本被験者が鍛錬者であったことによるものとしている。Hypoxiaでの運動では、活動筋への酸素流量がnormoxiaよりも減少するにもかかわらず、酸化ストレスは増大した。おそらく運動後の採血が低酸素中断後であったために、これまで低酸素状態にあった組織に酸素が一気に行き渡り、活性酸素種の産生を高めたことも原因の1つとして考えている(虚血-再還流による酸化ストレスと類似)。次に、hypoxiaでのトレーニングにより抗酸化能は低下したが、normoxiaでは変化しなかった。Hypoxiaの運動では、発生した活性酸素種を中和するため、抗酸化防御系が活発に働いている。Hypoxicトレーニングでは、このことが繰り返されることにより、生体内の抗酸化供給源は減少し、抗酸化能を低下させたであろう。トレーニング前後で、中性脂肪とα-トコフェロールの増加量の間には有意な相関が見られたことから、中性脂肪の高い者ほどα-トコフェロールも豊富で、抗酸化能の高いことが示された。Hypoxicトレーニング後は、α-トコフェロール/中性脂肪比がnormoxicトレーニングよりも減少していたことから、本被験者における抗酸化栄養成分の摂取は不十分であったことが考えられる。一般に持久性競技者は、脂溶性抗酸化物質を最も供給する脂肪を少なく、炭水化物を多く取る食事法を行なう傾向が強い。以上のことから、6週間の“リビング・ハイ-トレーニング・ロー”モデルは、運動と低酸素という2つの独立した刺激が複合的に作用することで酸化ストレスを高め、抗酸化能を低下させるという結果を示した。高所(低酸素)トレーニングを行なうアスリートが抗酸化能を維持するために、抗酸化サプリメントの摂取が有効かどうか、さらに検討する必要がある。

冒頭でも示したが、最近では持久性種目に限らず様々な種目のアスリート達が高所や低酸素トレーニングを取り入れている。しかしながら、必ずしも成功という恩恵に浴することはできていない。失敗する例も多々見られるためである。本論文は、低酸素トレーニングによっておこる抗酸化能の低下が低酸素から復帰したときに悪化するのではないかという可能性を示している。低酸素トレーニングの前後に抗酸化サプリメントを十分に補給することで低酸素トレーニングの成功率を少しでも上げることができるかもしれない。

(琉球大学 尾尻義彦)