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海外文献紹介

Effects of warm-up and precooling on endurance performance in the heat.
Sandra Uckert, Winfried Joch
British Journal of Sports Medicine, 2007, 41, 380-384

文献リンク
 

【背景】 暑熱環境下では常温環境下よりも持久性運動のパフォーマンスが低くなる。プレクーリング(運動前冷却、以下PC)は暑熱環境下でのパフォーマンス低下を抑えるひとつの方法と考えられ、ウォーミングアップ(以下WU)は余分な熱ストレスを与えている可能性がある。オリンピックは30℃を越える暑熱環境下で競技が行われるが、このような環境下でのWUやPCが持久性運動のパフォーマンスにどのような影響を与えるか解明されていない。そこで、暑熱環境下においてWUとPCのどちらが持久性運動の高パフォーマンス発揮につながるのかを比較する。

【方法】 被験者は体育大学の学生20名であった。全ての被験者は、WUを行った後に主運動を行う条件(WU条件)、PCを行った後に主運動を行う条件(PC条件)、前処置(WU,PC)を行わず主運動を行う条件(C条件)を行った。主運動はトレッドミル上で行う漸増負荷走運動であり、9km/hから5分毎に1km/hずつ加速させた。WUはトレッドミル上で行う20分間の走運動とした。PCは0~5℃に冷やされたクーリングベストを20分間着用するものであった。C条件は前処置を一切行わずに主運動を開始した。全ての実験は夏季における屋外競技の環境(気温30~32℃、湿度50%)に設定した室内で行われた。実験を通じて鼓膜温、皮膚温、心拍数、血中乳酸値を測定した。また、主運動開始から運動を持続できなくなるまでの時間を持久性運動のパフォーマンスとした。

【結果】 主運動前の心拍数、鼓膜温、皮膚温はいずれもPC条件よりWU条件で高値を示した。PCによって皮膚温は低下したが、鼓膜温は上昇した。また、WUによって皮膚温・鼓膜温は上昇し、血中乳酸値は2.68±0.71mmol/lに達した。主運動の持続時間については、PC条件が最も長く(32.5±5.1分)、次いでC条件(30.3±4.3分)、WU条件(26.9±4.6分)の順であり、それぞれの条件間にはp <0.001水準で有意差が認められた。鼓膜温は条件間に有意差が認められ(p<0.001)、運動中を通じてWU条件、C条件、PC条件の順で高値となった。運動開始時の皮膚温はWU条件で最も高温であり、C条件、PC条件の順であった。それぞれの条件間には有意差(p<0.001)が認められた。

【考察】 PCによって深部温を低下させることはパフォーマンス向上につながると報告されている。しかし、本研究のPC条件では深部温(鼓膜温)の低下はなかったが、運動持続時間が最長であった。PC条件では主運動開始前の皮膚温が最も低値であったことから、走運動のパフォーマンスに及ぼす影響は深部温よりも皮膚温の方が大きいかもしれない。以上より、暑熱環境下における漸増負荷走運動前にはPCがパフォーマンス向上に適しており、WUはむしろパフォーマンス低下につながるおそれがある。

【解説】 この研究のWUには疑問がある。ひとつはWUの強度が明記されていないことである。20分間のWU終了後における血中乳酸値は平均で2.68mmol/lであり、先行研究と比較するとWU時間は長く強度も高い。もうひとつの疑問点は主運動が漸増負荷走運動であったことである。C条件やPC条件では主運動開始時の緩やかなペース(9km/h)がWU代わりになっていたとも考えられる。レースの時は、始めからある程度のペースで走る必要があるため、この結果から「暑熱環境下でのレース前はWU不用」とするのは早計である。

以上のような疑問点はあるものの、暑熱環境下でのPCが漸増負荷走運動持続時間の延長につながったことは重要な知見である。特に皮膚温を低下させることで十分に効果を認めている点は現場的であり注目に値する。この研究の結果は、暑熱環境下でトレーニング量を確保する手段としても活用できるだろう。

(新潟医療福祉大学 瀧澤一騎)