• 学会活動

海外文献紹介

The effect of a pre-exercise carbohydrate meal on immune responses to an endurance performance run.
Ya-jun Chena, Stephen Heung-sang Wong, Chun-kwok Wong, Ching-Wan Lam, Ya-jun Huang and Parco Ming-fai Siu
Br J Nutr. 2008 May 9:1-9

文献リンク
 

【背景】先行研究において、高強度運動、長時間運動における炭水化物(CHO)摂取が炎症性サイトカイン、また、末梢血リンパ球、好中球など、免疫担当細胞の機能に影響することが報告されている。近年では、免疫機能の調節とCHO摂取の関連についての研究が進んでいるにも関わらず、ほとんどの研究はGIやGL食摂取の影響について研究が進んでいないのが実状である。本研究では、長距離走の2時間前に、高CHO食、または、低CHO食に、高グリセミックインデックス(GI)食、低GI食、高グリセミックロード(GL)食、低GL食摂取を組み合わせ、長時間走行中、走行後の免疫応答にどのような影響を及ぼすか調べた。

【方法】被験者はエリート男子長距離ランナー8名であった。実験はトレッドミルを用いて70%VO2max強度で1時間走(T1)、続けて10kmのタイムトライアル(TT)を行なった。被験者は運動開始2時間前、等エネルギー量でGI、GL値が異なった組み合わせのCHO摂取を行なった。H-H摂取群(エネルギー摂取量の66%の炭水化物量:高GI、高GL食)、L-L摂取群(66%の炭水化物量:低GI、低GL食)、H-L摂取群(36%炭水化物量:高GI、低GL食)の3群にわけて比較した。

運動前、T1後、TT後、運動60分後、運動120分後の末梢血白血球数、好中球数、リンパ球数、単球数を測定し、また、リンパ球サブセット、(Tリンパ球、ヘルパーT細胞、抑制性T細胞、NK細胞、B細胞)を分析した。同様に、血漿サイトカイン、血清コルチゾールを測定した。

【結果】末梢血白血球数は、TTの終了後から2時間の回復期まで、H-L群のリンパ球数、好中球数がH-HとL-L群と比較して高値を示した(p <0.05)。リンパ球サブセットは、3群ともTT直後に上昇し、回復期に低下するという運動の影響は見られた。Tリンパ球は、10kmTT後、H-L群がH-HとL-L群と比較して高値を示した。

血漿サイトカイン、IL-6濃度は3群とも、運動開始から回復期まで増加し(p <0.01)、TTの終了後から2時間の回復期まで、H-L群はH-HとL-L群と比較して高値を示した。また、IL-10においても同様の変化が見られた。血清コルチゾールは運動後に増加し、その反応はグルコース濃度と逆相関であった(r=-0.52, p<0.05)。加えて、コルチゾール濃度と好中球数は、運動直後(r=0.58, p<0.05)と2時間の回復期(r=0.69. p<0.005)に有意な相関関係が見られた。

【考察】運動前の低CHO(H-L)食では、末梢血中の白血球、好中球、リンパ球の変化に関連していた。また、リンパ球サブセットの変化は、ストレスホルモンであるコルチゾールの応答と相関することから運動による血流の影響と関係しているのかもしれない。

IL-6とIL-10は、運動前に低CHO食(H-L)に比べて、高CHO食(H-H、L-L)摂取群において運動直後、回復期の増加が少なかった。これらの結果は、運動前のCHO摂取量がGIとGL値の組み合わせに関係なく、長時間運動における免疫・内分泌反応に影響する重要な要因である可能性が示唆された。

【解説など】炭水化物の摂取が免疫機能を改善することは、いくつか報告されている。本研究では、運動2時間前にGI、GL値が異なる炭水化物摂取を行ない、免疫系指標がどのように変化するかを調べた。結果的にはGI、GL値には関与しなかったが着眼点は興味深かった。実験で気になった点は、食事内容であった。日常的な食事を想定したため、炭水化物、脂質、蛋白質、水分の摂取量は合わせているが、ビタミンや、その他のミネラル成分は免疫系への影響が否めない。

また、免疫担当細胞は、末梢血中での細胞の移動を観察しているにすぎないため、運動によって各臓器に移動した免疫担当細胞の働きが気になるところである。特に消化管では生体の70%の免疫担当細胞が働いているため、CHO摂取が消化機能の恒常性維持にどのように役立っているのか、これらが分かればアスリートの早期の疲労回復、コンディショニングに応用できるかもしれない。

<キーワード>

GI(glycemic index):血糖上昇指数のこと。食物が消化され血中に糖として取り込まれる時間を、ブドウ糖を100として比較したもの。高いものは血糖値が上がり易く、低いものは血糖値が上がりにくい。また、この値が低いほどインスリンの分泌を低く抑えられる。

GL(glycemic load):食品ごとの血糖値の上げやすさを示す指数。GIに食品に含まれる糖質の割合を掛けた値。

(東北大学 松生香里)