学会活動

海外文献紹介

Effect of Ambient Temperature on Marathon Pacing ls Dependent on Runner Ability.
Ely M R., Martin D E.,Cheuvront S N,and Montain S. J
Medicine & Science in Sports & Exercise. 40, No 9 : 1675-1680, 2008

文献リンク

【緒言】

マラソンは、最も過酷なスポーツ競技の一つと考えられ、しかも、人気のスポーツであるにも関わらず、ペース配分に関する利用可能な情報はあまり存在しない。マラソンのペース配分を検証した先行研究は、記録に大きな差のあるランナーを比較したものに限られ、しかも、天候がペース配分に及ぼす影響については明らかにされていない。本研究は、異なる走力を持つ女性マラソン競技選手のマラソンレースにおけるペース配分、ならびに気温の上昇がペース配分に与える影響について検証することを目的とした。

【方法】

分析対象は日本国内で開催された国際女子マラソン(東京、大阪、名古屋)の62レースとした。異なる走力を持つランナーのペース配分を検討するために、各レースの優勝者、25位、50位、100位のランナーのデータを抽出した。ペース配分の分析は、40kmまでの平均スピードと5kmごとのスプリットタイムの差から検討した。さらに、レース時の気温を涼しい(Cool: 5-10℃)、やや暖かい(Temperate : 10.1-15℃)、暖かい(Warm: 15.1-21℃)のコンディションの違いから5㎞ごとのペースの相違を検証した。

【結果】

優勝者は、レースを通じてほぼ一定ペースで走行していた。一方、その他のランナーは、20~25km経過する頃からペースが低下し始め、以降40kmまで漸進的に徐々にペースが低下した。特に100位のランナーは、25位と50位と比べても35km以降のペースが著しく低下した。気温がペース配分に及ぼす影響については、50位と100位のランナーは、気温による影響を比較的受けなかった。一方、優勝者のランナーは、Coolのコンディションでは、レースを通してペースが維持できていたのに対し、Warmのコンディションでは35km以降のペースが若干低下していた。

【考察】

優勝者と遅いランナーにおけるマラソンのペース配分を比較すると、優勝者は相対的に一定ペースで走行していたのに対して、その他のランナーは20~25kmまでしかペースが維持できず、それ以降、漸進的にペースが低下した。気温がペース配分に与える影響については、特に速い競技選手では、暖かい気候に比べ涼しい気候でペースが維持でき、パフォーマンスが向上するようである。一方、遅い競技選手の場合、暖かい気候では、レース開始から速度を遅くすることで結果的にパフォーマンスの低下を防いでいたようである。

(鹿屋体育大学大学院 髙山史徳)