• 学会活動

海外文献紹介

Do older athletes reach limits in their performance during marathon running ?
Romuald Lepers and Thomas Cattagni
Age (2012) 34:773-781

文献リンク
 

高齢者マラソンランナーは記録の限界レベルに到達しているか?

【目的】

1980年から2009年までのニューヨークシティマラソン(NYC)に参加したマスターアスリートの参加者数の変遷とマラソン記録の傾向を分析する。加えて、各時代の年齢別にみた男女の記録差を比較する。

【方法】

1980-2009年までのNYCマラソン参加者全員の記録と年齢はNYCマラソンのウェブサイトから得た。マスターアスリートの定義は40歳以上かそれに相当する人とした。40歳より若い人は20-29歳と30-39歳に分け、40歳以上の男女を5才刻みに分けた。各年齢グループのトップ10の平均ランニング記録は男女とも1980-1989、1990-1999、2000-2009の3区分で分析した。

【結果】

完走者数は、1980-1989から1990-1999にかけて65%増え、次の10年では25%の増加であった。男性よりも女性ランナーの増加が顕著で、男女比は30年間で縮小し、男女とも若い年齢層より40歳以上のマスターアスリートが相対的に増加した。過去30年の男女各年齢層におけるトップ10のマラソン平均タイムは、60-64歳以下の男性の平均完走タイムは、変わらず、それに対し60-64歳以上の年齢で顕著に短縮された。女性では、45-49歳以下の平均完走タイムは過去30年で変わらず、45-49歳以上で短縮された。また、マラソンタイムの男女差は、年代に伴い縮小した。

【考察】

マスターアスリートが運動に継続的に参加することは、うまく年を取っていくことを決定づける理想的なモデルである。NYCマラソンのような競技的要素のあるイベントでの各年齢のトップ10に入るアスリートは、最大の運動能力を発揮していると思われる。参加数、完走者数は男女とも過去30年間で増えている。その理由として、高齢者の平均余命が伸びていることや、ベターエイジングと言えるような歳を重ねてからの身体運動による健康への好影響が出ている高齢者の健康面と運動に対する積極的な理解面とが、レース参加者の増加状況の説明になっているのかもしれない。しかしながら、マスター層の中で、人生の後半にトレーニングを始めた人(40歳以降など)と若い時期からランニングに取り組んできた人の差は、わかっていない。マラソンレース運営側は、エントリーを受け入れる人数の制限を広げてきたが、NYCのエントリー数の制限を設けていたら、各年齢層の男女の比率は変わらなかったかもしれない。NYCの女性参加者の割合は、過去30年間で増加したが、依然として男性より低い割合である。しかし、女性のフィールドにおいて、マラソンレースといったスポーツイベントへのマスターアスリートの指数関数的増加は、歳を重ねていく過程の再評価や競技能力にどのように関連しているかを明らかにするはずである。

マラソンパフォーマンスは40歳から64歳の男性において、プラトーに達した状況であり、過去20年間に変化は見られない。だが、65歳以上の男性のタイムは短縮されている。その理由として、多くの高齢者の競技への参加は、より良いランナーを見いだす可能性を高めること、高齢者向きのトレーニング施設が増えたこと、そして競技として取り組む精神をもつ高齢者が増えたことなどがある。対照的に40歳から64歳の男性記録の停滞状態を見ると、若いマスターアスリートの人達はマラソン記録の限界に近年、達したのではないかとも言える。女性ランナーの記録は改善され、40歳から44歳を除いては、過去20年間どの年齢層にも記録の短縮が見られた。マスターアスリートの記録改善の大きさは、男性ランナーより女性ランナーの方が大きく、これらのデータが意味することは、優れた若い女性アスリート世代が高齢者層の競技者になったとき、50歳以上の世代で今後、まだマラソン記録の改善が期待できるともいえる。高齢女性アスリートの記録向上は、将来(50歳以上の)どの年齢層のトップ10にも記録の改善が期待される。マラソンの男女の世界記録の差は、この30年間で縮まってきており、1980年の男子の世界記録は2:08:34、女子は2:25:41で、その差は13.3%。女性ランナーが男性ランナーの記録に近づいてきたといえる。過去30年の全年齢におけるマラソン記録の男女差が相対的に変わらないのは、年齢に関係する生理学的機能の低下に男女差がないことを示していよう。

【解説】

ニューヨークシティマラソン(NYC)は過去30年開催が続いている世界でもビックスポーツイベントの一つである。分析の結果、過去30年で40歳以上の、マスターアスリート層の参加者が増えていることが、改めて確認された。また、参加者だけでなく、この10年で完走者の割合も男性50%、女性は40%増加していることを明らかにしている。記録的には、男女とも60歳以上のマスターアスリートは記録を短縮し、特に、女性トップ10は男性の伸び率より高いと指摘している。年齢別でみると、男性65歳上、女性44歳以上でタイムの短縮が有意であること、また、過去30年で女性の参加割合が高くなり、その結果、参加者の男女比は以前より、小さくなっているという。障害を起こさないことで参加が継続でき、高齢者が利用できるトレーニング施設が増えていることなどが、女性増加の理由である。過去の文献では参加者の男女比は1:1になると予測されていたが、残念ながらそれまでには至っていない。

まとめは、1)男性65歳以上、女性45歳以上のマスターランナーはマラソン記録の上限にまだ到達していない。2)年齢に伴う身体能力の低下に男女差は見られない。結果、大規模スポーツイベントの調査は将来も必要であるとしている。

((株)MFS 宮原清彰)