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海外文献紹介

Marathon performance in relation to body fat percentage and training indices in recreational male runners
Tanda G., Knechtle B.
J Sports Med. 2013 May 28;4:141-9.

文献リンク
 

男性市民ランナーにおいて体脂肪率とトレーニング指標はマラソンパフォーマンスと関連する.

【諸言】

マラソンのような長時間スポーツの場合,最大酸素摂取量,乳酸閾値,走の経済性がパフォーマンスに影響することは知られている.しかし,このような測定はレベルの高いランナーで行われる事が多い.つまり,近年増加している市民ランナーにとって,トレーニング指標や形態指標といった,簡単に測定でき,自身でモニタリングできる指標に基づいてマラソンパフォーマンスを推定できることが望ましいと考えられる.

そこで本研究は,マラソンパフォーマンスに対するトレーニング指標と形態指標の貢献度を明らかにし,多重非線形回帰を用いてマラソンパフォーマンスを推定することを目的とした.

【方法】

対象レースは,2010年,2011年にスイスで行われたBaselマラソンとした.被検者は691名の参加ランナーランナーのうち,研究協力の得られた126名とした.なお,すべてのランナーは5時間30分以内に完走した.トレーニング記録についてはレース前3ヶ月間記録させた.記録内容は,1回のトレーニングにおける走行距離と時間であった.そして,その記録から週間走行距離,練習頻度,1回の練習の走行距離・練習時間・ペースを算出した.また,自己申告で,1週間のトレーニング距離やペースについても別で記録させた.形態指標は,体重,身長,周径囲,皮脂厚を測定した.なお,体脂肪率はBall et al.(2004)の式を用いて,7部位の皮脂厚から算出した.

トレーニングデータの精度を高めるため,1回のトレーニングにおける距離,速度の記録から,1週間の練習距離,速度を計算し,トレーニング記録に書かれている自己申告の週間走行距離や練習ペースと比較を行い,週間走行距離では±20%以内,練習ペースは±15%以内となる被検者を抽出した.その結果126名から51名が抽出された.さらにより精度を高めるため,週間走行距離が30km未満,レース後半のペースが前半よりも10分以上遅くなったものを分析から除外した.その結果,25名の被検者が抽出された.

形態のデータについては,トレーニングデータとは異なり,自己申告の影響を受けないため,レース後半のペースが前半よりも10分以上遅かったものは分析から除外し,52名のデータを抽出した.

マラソンパフォーマンスとトレーニング指標および形態指標の関連をみるために,直線および非直線(多項式,累乗指数,指数)といった数学的モデルにおける相関分析を行った.また,それらのモデルのカーブフィッティングについてはソフトウェアを用いた.そして,最終的には,多重非線形回帰を用いて,最も予測因子として高い指標からマラソンパフォーマンスを予測することとした.

【結果】

抽出されたデータとマラソンパフォーマンスの関連をみたところ,週間走行距離,練習のペース,体脂肪率との間で高い関連がみられた(r=0.49~0.76).そこで,25名のデータからパフォーマンスの推定式を作成し,数学的な過程を経て以下の式を作成した.

マラソンパフォーマンス(分)=11.03+98.46exp(-0.053*K)+0.387*P+0.1exp(0.23*BF)
 K:週間走行距離(km/週),P:練習ペース(秒/km),BF:体脂肪率(%)

この式の範囲は,週間走行距離は30~150㎞/週,練習ペースは232~400秒/km(9~15.5㎞/時),体脂肪率は9.3~25.5%,マラソンパフォーマンスが2時間45分~4時間21分であった.実際と推定式のマラソンパフォーマンスはSEEが14.3分,相関係数が0.81であった.

【解説】

本研究では,最大酸素摂取量や乳酸閾値といった「高価な機材を用いた測定をしていない」こと,マラソンパフォーマンスの推定精度を高めるために,「トレーニング内容が正しく記録できていない」,「レースで本来のパフォーマンスが発揮できていない」といった,「推定精度を低くする要素をできるだけ取り除いた」こと,「非直線系の回帰モデルを用いた推定を行っている」ところにオリジナリティーがある.

実際の数式は数学的なモデルが用いられているために,数式を見て簡単に計算することは難しい.しかし,表計算ソフト(エクセルなど)を用いることで意外にシンプルに計算できる.実際に,週間走行距離50km/週,練習ペース5分/km,体脂肪率12%のランナーを想定して,タイムを推定したところ,推定タイムは3時間24分となった.また,本研究の標準誤差が14.3分であることから,このランナーは3時間10分~3時間40分の間ではゴールができると推察できる.

本研究で使用している指標は,トレーニング記録と体脂肪率であり,両者とも市民ランナーでも簡易にわかるものである.また,それらを把握しているランナーであればレース当日であっても,ランナーのパフォーマンスが推定できるといった即効性もある.さらに,マラソンパフォーマンスの推定は,近年増加している初心者ランナーにとっては,目標タイムの設定,レースペースの立案を行う上で非常に参考になるものであると言える.

ただし,本研究で対象とされているランナーは2時間45分~4時間21分であり,近年の日本人ランナーのマラソン平均タイムは4時間36分(第11回全日本マラソンランキング,2015)であることから,平均以上のランナーにおいて精度が高い予測式であることを念頭におく必要がある.また,本研究は男性ランナーを対象としたものであり,男性と女性とでは体脂肪率が大きく異なるため,同様の算出式が用いられるのかといったことは疑問が残る.今後は,これらの問題を解決できるような研究が行われることが望まれる.

(鹿屋体育大学大学院、日本学術振興会特別研究員  森 寿仁)