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海外文献紹介

Neuromuscular factors determining 5 km running performance and running economy in well-trained athletes.
Ari T. Nummela, Leena M.Paavolainen, Karen A.Shrwood, Mike I. Lambert, Timothy D. Noakes, Heikki K. Rusko.
Eur J Appl Physiol., Vol.97,No.1,pp1-8. 2006

文献リンク
 

これまでの研究で、VO2max、%VO2max、ランニングエコノミーは、長距離走レースにおける速度維持の主要な決定因子であることが示されている。しかし、最近の研究では、神経-筋要素もまた長距離走パフォーマンスの重要な決定因子である可能性が示されている。本研究では、長距離走パフォーマンスを決定する要素および速度特性の重要性について検討することを目的とした。そのために、MARTの最大速度(VMART)、5km走中のEMGおよびストライド特性が、ランニングエコノミーおよび長距離走パフォーマンスと関連しているかどうかについて検討した。

方法:18人の男子長距離走者が5つのテストを行った。実際の走動作による神経-筋機能、無酸素性能力、有酸素性能力を評価するために、1周144mの室内トラックにおいて、20mスプリント走、走速度4.28m/sにおけるランニングエコノミー、5kmタイムトライアル、MARTを行なった。また、トレッドミルテストによりVO2maxを測定した。AEMG ratioは、5km走(それぞれおよそ1km、3km、4.7km、5kmの地点)における5つの下肢筋の値を平均したEMG(AEMG)を、20mスプリント走における同じ筋群のAEMGで除することによって算出した。ランナーのVO2maxを超えたパワー産生能力(MART VO2gain)は、MARTにおける最大速度(VMART)の酸素需要量からVO2maxを引いた値により評価した。

結果および考察:5kmの走速度(V5K)は、VMART(r=0.77、p <0.001)およびVO2max(r=0.49、p<0.05)と相関関係にあった。このことから、VMARTは、長距離走パフォーマンスの決定因子の一つであると考えられる。また、重回帰分析により、MART VO2gainとVO2maxは、V5Kの変動の73%を説明することが示された。これは、MARTにおけるパワー指標が、長距離走パフォーマンスと強く関連していることを示唆するものである。Paavolainenら(1999a, b)は、5km走速度と接地時間との間に有意な相関関係を認め、瞬発的な力発揮は、スプリンターだけでなく長距離走者にも必要な能力であることを示唆している。本研究では、5km走速度と接地時間との間に有意な関係は認められなかった。しかし、5kmの走速度の低下は、ストライドの低下に起因するものであったことから、高い走速度には、速いピッチよりも長いストライドが貢献するものと考えられる。V5Kと3km地点での接地局面におけるAEMG率との間に有意な相関関係が認められた。このことは、筋の動員に関わる神経入力が長距離走パフォーマンスに影響する可能性を示唆するものである。つまり、タイムトライアルの疲労が大きくなる地点(3km)において筋の動員レベルを高く維持しているランナーは、低下させてしまうランナーと比較して、より優れたパフォーマンスを発揮することを示唆するものである。

神経-筋系能力を高めるスプリントタイプのトレーニングは、運動単位の動員と同期化を高め、筋出力と走効率に影響するようである。先行研究(Creerら, 2004)では、神経系の改善による効率の向上は、疲労の開始を遅らせるかもしれないことを示唆している。本研究の知見は、長距離走パフォーマンスとランニングエコノミーが筋出力に関わる神経-筋機能と関連すること、また、VMARTは長距離走パフォーマンスの決定因子となりうるというこれまでの知見を支持するものである。さらに、神経系のコントロールと、力とパワーを発揮する神経-筋機能が、Di Prampero(1986, 2003)とBassettとHowley(1997,2000)によって示された長距離走パフォーマンスのエネルギー系のモデルに対して、新しい情報を提供するという仮説を支持する知見が得られた。

【紹介者コメント】

紹介者の以前の研究において、短い接地時間でより高くジャンプできる爆発的筋力発揮を評価するリバウンドジャンプ指数と、ランニングエコノミーとの間に有意な相関関係を認めたことがある。自分のランナーとしての経験や一流ランナーの形態や動きの印象からも、リバウンドジャンプ能力に優れるランナーは、いわゆる“バネ”のきくランナーであり、スピードが出せ、かつ、効率良く走れ、結果として優れたパフォーマンスの発揮に貢献するのではないか、と考えていた。ただし、当然のことであるが、有酸素性能力に優れていることが前提になる(必要条件である)ことを忘れてはならない。今回、紹介した文献は、そのメカニズムを説明することに役立つものと考えたが、まだ、検討すべき課題も多く、今後、研究および実践的な報告が活発になることを期待したい。

(日本女子体育大学、佐伯徹郎)