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海外文献紹介

American College of Sports Medicine position stand. Exercise and fluid replacement
Sawka MN, Burke LM, Eichner ER, Maughan RJ, Montain SJ, Stachenfeld NS
Med Sci Sports Exerc 39(2)377-90,2007

文献リンク
 

【要約】
運動時の水分補給について

本ポジションスタンドは、身体活動時において体液を適正に維持するためどのように水分補給をしたらよいのか、その指針を示したものである。

運動前の体液調節は、体液を確保し血漿電解質を正常な状態にして身体活動をスタートさせることが目標となる。通常の食事と飲み物に加え、飲料によって運動前の体液調節を行おうとする場合、体液が十分吸収され尿量が正常水準に維持されるためには、少なくとも活動の数時間前から摂取する必要がある。

運動中の飲水の目的は、パフォーマンスを低下させてしまうような過剰な脱水(体重の2%以上の体液損失)ならびに電解質の極端な変化を防ぐことにある。ただし、発汗量および汗中の電解質含有量には個人差が大きく、したがって水分補給の方法はそれぞれ個人特性に合わせて調整することが望ましい。個人の発汗量は、運動前後の体重を測定することで推定できる。運動時、状況によっては、飲料に電解質や炭水化物が含まれている方が水だけの場合よりも効果的である。

運動後の水分補給の目的は、運動で不足した水・電解質を回復させることにある。そのときどの程度積極的に水分を補給を補給したらよいのかは、体液を回復させる緊急度および水・電解質の不足度によって決まる。

【解説】

スポーツ医科学の代表的な学術団体である全米スポーツ医学会は、古くから長距離走やマラソンなど持久的スポーツを行うときの水分補給の重要性を説き、1975年より数回にわたりPosition Standを出版しています。ここに紹介したものは、2007年に出されたものでこれまでの最新版です。ここでは、生理学的な観点から体液調節を詳細に解説したのち、体液調節と健康、パフォーマンスとの関係を述べ、最後に具体的な水分補給方法について運動前、運動中、運動後に分けて説明しています。なおこの最新のPosition Standでは、これまでの勧告とは根本的に異なる二つの大きな改訂があったので、少し詳しく紹介しておきます。

一つは、補給量の適量に関する内容です。それまで、おもな学会やスポーツ団体が出してきた水分補給に関するガイドラインでは、補給量の適量を「発汗相当量」としてきました。汗で失われた体液量に見合って同じ水分量を補うというのは、ごく自然な考え方でしょう。全米スポーツ医学会でも、1996年の前回のPosition Standまで発汗相当量の補給を積極的に勧めてきました。同時に、具体的な数値で水分補給量を提示していました。前回の勧告では1時間あたり600ml〜1200mlとしています。しかしながら、ランナーの発汗量は、体型、競技レベル、代謝特性などによって大きく変わり、当然、水分補給の必要量も個人によって異なります。一律に数字で示すことには無理があり、このような幅広い数値で表示せざるを得なかったのです。しかし、仮に体重の軽い初心者ランナーが推奨された数値の上限を守って、4時間、5時間と水を飲み続ければ、相当過剰な水分摂取になってしまいます。

そして、今回の第二の改訂ポイントは、水の飲み過ぎによる「水中毒(低ナトリウム血症)」への警告です。マラソンレース時に水の飲み過ぎによる水中毒によって死亡事故が起こり、それに対応した勧告が必要になったのです。今回の勧告では、適切な飲水量をこれまでの発汗相当量から体重2%以内の脱水を許容する内容に改め、これまで触れてこなかった水中毒予防を喚起する内容が盛り込まれました。また補給量についても、個人差を考慮し選手個人の裁量に委ね、これまでのような具体的数値をあえて提示していません。

今日、マラソンのような持久的スポーツにおける水分補給に関する学術的見解は、大きく変化しています。ここで紹介したPosition Standは、そのパラダイム・シフトを示す論文として意義深いものと言えましょう。なお、オリジナル論文およびその日本語訳も掲載しました。また、その歴史的経緯の詳細については、ランニング学会が発行した「マラソンレース中の適切な水分補給についてーランニング学会の見解ー」(2010 VOL.22 NO.1)にも紹介されています。合わせて、参考にしてください。

(日本体育協会 伊藤静夫)