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海外文献紹介

Relationships and significance of lactate minimum, critical velocity, heart rate deflection and 3 000 m track-tests for running
Simoes HG, Denadai BS, Baldissera V, Campbell CS, Hill DW.
J Sports Med Phys Fitness. 2005 Dec;45(4):441-51.

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Introduction

有酸素性能力の指標である乳酸性閾値(LT)を評価するためのテスト方法として,心拍数の変曲点(HRd)が出現するときの走速度(VHRd)を求めるコンコーニテストや,あらかじめスプリント運動を実施し血中乳酸濃度(La)を高めた後に,漸増負荷テストをおこない,Laが最少になる時の走速度(乳酸最小速度;Vlm)を求める乳酸最小テストが提唱されている.また,理論的には疲労困憊に至ることなく長時間運動を持続可能な運動強度を示すCritical Velocity(CV)は,LTとは異なる性質を持つ有酸素性能力の指標として注目されている.VHRdやVlmがLTの代替指標になりうるのかについて,その妥当性や再現性については数多く検討されているが,これらの指標(Vlm, VHRd, 及びCV)がランニングパフォーマンスの指標になるのか,また、それぞれの指標の関係性について検討した研究はおこなわれていない.そこで本研究は1)ランニングパフォーマンスとVlm, CV, 及びVHRdの関係を比較すること,2)乳酸蓄積を伴わずに運動することができる強度の指標としてのVlm及びVHRdの妥当性を評価すること,3)Vlm, CVを用いた運動強度の規定方法について議論すること,を主な目的とした.

Methods

被検者はナショナルレベルの長距離ランナー(29.6±6歳,66.4±4.2kg,174.1±4.3cm)20名であった.屋外400 mトラックにおいて,3000 mタイムトライアル(V3000),VHRdテスト(1ステージ200 mの漸増負荷テスト),及びVlmテスト(500 mのスプリントランニング後に,800 m毎に速度を増加させる漸増負荷テスト)を実施した.また,これらのテストから算出したVlm及びVHRd強度で30分間の持久テスト(ET)をおこない,運動中のLa動態を評価した.さらに,Vlmテスト時の500 m,及びV3000の記録を X軸,それぞれの走行距離をY軸として一次回帰式を求め,この回帰式の傾きであるCVを求めた(Y=aX+b,Y=距離,X=時間,a=CV,b=Anaerobic work capacity).20名中14名の被検者が,実験後10日以内に10 kmレースに参加したため,この記録もランニングパフォーマンス(V10 km)として分析に用いた.

Result及びDiscussion

Vlm ( 281 ± 14.8 m / min ) < CV ( 292.1 ± 17.5 m/min ) = V10km ( 291.7 ± 19.3 m/min ) <VHRd ( 300.8 ± 18.7 m/min ) = V3000 ( 304 ± 17.5 m/min ) となり,CV は V10km と,VHRd はV3000 とほぼ一致した.また, Vlm, CV,及び VHRd には,互いに有意な相関関係が認められるとともに, V500 ( r=0.745, 0.680, 0.558), V3000 (r=0.911, 0.995, 0.710),及び V10km (r=0.990, 0.902, 0.841)とも高い相関関係が認められた.Vlm強度でのETは,全ての被検者が完走した(5.5±1.6mM)が,VHRd強度でのETの平均運動時間は12.5±8.2分であり,完走した者は3人のみ(7.6±2.0mM)であった.このように,いずれのパラメータもランニングパフォーマンス(V500,V3000及びV10km)と強く関係していたが,特にVlmは持久性ランニングパフォーマンスを予測するパラメータとして,また長時間運動の強度を規定する指標として有効であることを示した.CVはVlmよりも11m/minも速く,V10kmとほぼ一致した.したがって,V500及びV3000から算出されるCVは特にV10km強度を示す優れた指標であるといえる. HRdは全ての被検者で認められたが,その速度(VHRd)はVlm,CV及びV10kmを上回り,V3000(vVO2max)とほぼ一致した.さらにVHRd強度のETにおいて短時間にLaが蓄積し,最大心拍数の98%に達したことから,VHRdはLT強度を示す指標としての妥当性は低いが,最大強度(vVO2max強度)を示す指標として利用することができると考えられる.Vlm,CV及びVHRdが,それぞれ92.6%,91.6%及び99%V3000に相当することから,著者は持久性ランナーのトレーニングを,Vlm以下の強度(under90%V3000)での30-50分のトレーニング,Vlm強度(91-93%V3000)での20-30分のトレーニング,VlmとCVの間の強度(93-96%V3000)での10-20分のトレーニング,及びCV強度以上(>91.6%V3000)での間欠的トレーニング,に区分し実施している.また近年では,運動中にVO2maxを出現させることを目的としたVHRd(99%V3000)やV3000強度での4-6分のインターバルトレーニングも実施している.このように,これらのパラメータを用いることによって運動強度を明確に規定することが可能となるとともに,トレーニング目標を明確にすることができる.

(筑波大学大学院 中垣浩平、筑波大学 鍋倉賢治)