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新しい生活様式におけるランニング(第三の提言)

2020年7月25日

はじめに

さまざまなスポーツ活動が再開へと動きだしつつあり、日本陸上競技連盟でも、「陸上競技活動再開のガイダンス」「ロードレース再開についてのガイダンス」を策定、公表し、再開への道を開きつつあります。

ランニング学会では、「外出自粛要請時のランニング愛好者への皆様のお願い」「緊急事態宣言解除後における、ランニング愛好者への皆様のお願い」に続き、今般、「新しい生活様式におけるランニング」について提言をまとめました。

ランニングは、一人で行うことの出来るスポーツではありますが、グループや多人数で行う場面も多くあり、それらの場面では、個人で行う場合に比べ、感染リスクが高くなることは言うまでもありません。そこで、グループでの練習会を想定し、感染リスクを可能な限り抑えるための方策をまとめ、併せて個人で行うランニングのあり方について再確認の提言を載せました。陸上競技会やロードレースへの参加に関しては日本陸上競技連盟のガイダンスをご参照ください。

グループで行うランニング:集団走

グループ練習での感染リスクを抑えるには、まず、新型コロナウイルスの感染経路を理解することが重要です(資料1をご確認ください)。グループ練習への参加に当たっては、チェックリスト(資料2を参考にしてください)によって、「体調」と「感染リスク」を確認し、問題がある場合は、グループ練習への参加を見合わせてください。

資料1 感染経路の観点からみた新型コロナウイルス感染症の特徴

新型コロナウイルス(SARS-CoV2)の主な感染経路は、接触感染と飛沫感染の2つです。これら2つの感染経路をおさえるために知っておきたいことは、以下の9つです。

  1. 患者は症状が出る数日前から感染力を有する
  2. マスクで咳やくしゃみの時の飛沫の多くをブロックすることは可能である
  3. 一度使用したマスクは見た目がキレイでもウイルスで汚れていることを前提に扱う
  4. 感染源となる他人から1m(できれば2m)離れれば、マスク無しでも感染する可能性は低い
  5. 屋内よりも屋外の方が、飛沫がすぐに拡散するので感染リスクは低い
  6. このウイルスは、ヒトの身体を離れても条件によっては数日間感染性を有するが、時間経過と共に徐々に活性を失うため、最初の量がずっと存在するわけではない
  7. 感染が成り立つためにはある程度のウイルス量が必要である
  8. このウイルスはエンベロープという脂質の膜に覆われていて、アルコールだけでなく界面活性剤に弱いから、石鹸も効果がある
  9. ヒトへの感染は口、鼻、目からである

以上の特徴を理解して練習に臨んでください。

資料2 体調および感染リスクのチェックポイント

直近2週間において、以下の症状・事項に該当すれば、グループ練習や講習会等への参加を見合わせてください。

    [体調チェックポイント]

  1. 発熱(37.5℃以上)
  2. 喉の痛み
  3. だるさ(倦怠感)
  4. 息苦しさ
  5. 嗅覚異常
  6. 味覚異常
  7. [感染リスク・チェックポイント]

  8. 新型コロナウイルス感染症陽性者との濃厚接触
  9. 同居家族や身近な知人に感染が疑われる方がいる
  10. 政府から入国制限、入国後の観察期間を必要とされている国、地域等への渡航又は当該在住者との濃厚接触がある

以上の特徴を理解して練習に臨んでください。

また、地域により感染状況が異なりますので、状況を踏まえた慎重な判断が求められますが、グループ練習で一般的に想定されるリスクを軽減するにはどんな工夫が出来るかまとめました。

1)並走するときは、他のランナーとの距離(*)をとるとリスクが小さくなると考えられます。また、十分な距離が取れれば、マスクは不要と考えられます。

(*)対人距離(social distance, physical distance)に関して、日本陸上競技連盟のガイダンスでは『できれば2m、最低でも1mを保てない集団での練習は極力避ける』とあり、 WHOでは『運動中のマスクを勧めないとともに、運動中、重要なことは1m以上の距離を保つこと』としています。

2)障がいを持つランナーの伴走をする場合は、息苦しさに注意しつつフェースガードなどを着用することでリスクを小さくできる可能性があります。

3)運動強度(走速度)が高くなり、呼吸が激しくなる場合は、他のランナーとの距離を、より広くとることを推奨します。

4)他のランナーとの距離が確保出来る場合でも、長時間並走するとリスクが高くなると考えられます。
※グループとしては、同じ時間帯に同じ区域で練習を行うにしても、相互の距離を取らない状況や長時間並走することは、避けた方が賢明と思われます。

5)マスクを着用してランニングを行うと、呼吸がしにくかったり、熱中症を引き起こしたりする恐れがありますので、適宜マスクを外し、水分補給や休養をとるよう務めてください。

ランニングと免疫機能

「生涯スポーツ」という視点からは、走力向上を求めるだけでなく、「適度なランニング」を行って、免疫機能を改善する(注1)ことも重要です。

「適度なランニング」とは、無理のない余裕ある速度と時間で走ることです。スポーツと免疫の権威・Niemanは「60/60/60」を推奨しています。一回の運動時間は60分未満、運動強度は最大酸素摂取量の60%程度(注2)、週走行距離が60マイル(96km)以下ということです。

高強度や長時間のランニングの後は、一時的に免疫のはたらきが下がり、感染症のリスクが高くなることが知られています(open window theory)ので、終了後には、十分なケアをすることが重要です。直ちに汗の処理を行い、栄養・水分を補給し、十分な休養をとることが重要です。これらの適切な行動をとることで、免疫のはたらきが一時的に低下するのを防ぎ、発症・重症化のリスクを軽減できると考えられます。

(注1)免疫のはたらきは高ければ高いほど良いわけではなく、過剰な場合には組織を損傷することもあります。また、免疫機能をより良い状態に近づけるには、適度なランニングとともに、十分な睡眠、ストレス管理、バランスの良い食事(高品質の栄養)も重要です。

(注2)最大心拍数の約70%に相当。主観的には気持ち良い~少し速めのジョギング。

一人で行うランニング

感染リスクの少ない一人でのランニングの意義を考えましょう。

グループで走る場合と異なり、一人で走る場合は、自分でペース設定しなければなりません。しかし、これによって、リズム感覚やペース感覚を修得することができますので、大会に参加する人には有益な練習になります。また、健康のために走っている方にとっても、自分に合った無理のないペースを修得するには、一人で走ることも重要です。

おわりに

万一、感染した場合に備え、各自治体の体制を確認しておくとともに、体温、体調(咳、咽頭痛、味覚・嗅覚障害など)、訪問場所、濃厚接触者などの記録をとっておくことをお勧めします。

この提言は、現時点の新型コロナウイルスの状況から作成したものですので、社会状況の変化に応じて、より実情に沿った形に随時改変して参ります。