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身体活動はCOVID-19の重症化を防ぐ

2021年9月23日
坂本静男

1. はじめに

2019年12月に最初のコロナウイルス感染症が武漢市で報告されて以来、その後世界中に大きな発生、つまり新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック状態が起こってきました。当初は65歳以上の高齢者に多く発症し、重症化する者も同年代に多く、高齢者への注意喚起が主として行われました。この感染症の対策について、世界保健機関(World Health Organization: WHO)からLiving Guidanceとして何度も報告されました1)。その中には患者の症状や徴候に関して以下の様に表示されています:入院した患者での一般的症状は、息切れ(32.2%~74.3%)、倦怠感(28.3%~67.8%)、咳嗽(7.1%~42.6%)、睡眠障害(17.7%~56.5%)、認知障害(18.0%~21.6%)、咽頭部違和感(3.2%~9.0%)、嗅覚障害(12.0%~14.6%)、味覚障害(9.0%~10.0%)であり、入院しなかった患者での一般的症状は、嗅覚異常(7.2%~51.3%)、味覚異常(5.0%~51.3%)、息切れ(7.7%~71.0%)、胸痛(6.9%~44.0%)、関節痛(2.0%~31.4%)、頭痛(5.0%~38.0%)、倦怠感(27.0%~87.0%)、動悸(10.0%~32.0%)、発熱(2.0%~11.0%)、認知障害(1.9%~28.6%)。そして一部の患者では、重症肺炎を起こして機器のサポートを必要とする呼吸困難のために集中治療室(Intensive Care Unit: ICU)へ入室し、中には死亡する患者も出てきました。また脳血管障害(脳血栓あるいは脳塞栓による脳梗塞)、心筋梗塞、肺梗塞等を発症し、死亡する患者も出てきました。その後、世界中でCOVID-19 の感染の波が何度も襲い、日本国内でも2021年7月下旬現在までに感染5波に襲われています。そして2020年末頃より、当疾患の病原ウイルスの変異株(アルファ株、ベータ株、デルタ株等)が出現してからは、若年~中年層の患者が多く出現し、それまでとは異なり若年~中年層、特に中高年患者でも重症化する例が報告されるようになってきています。

2. COVID-19 患者での重症化の機序

(詳細機序はAppendix 1を参考に)

従来から知られていたコロナウイルス感染症の重症化の病態は、図1の様に考えられています2)。急速なウイルス複製と盛んな炎症誘発物質の応答によって、肺上皮および血管内皮細胞のアポトーシス(細胞死)が起こります。それによって、肺の毛細血管と肺胞上皮細胞の隔壁が破綻して、血管漏出と肺胞浮腫が導かれ、最終的に低酸素血症を起こしていくことになります。

図1

また、COVID-19に特徴的な血栓症の発症機序は、図2のように考えられています3)。図2A は、細胞内にSARS-CoV-2(COVID-19の原因ウイルス)が侵入することで始まる血管内皮の損傷によって、びまん性内皮炎が引き起こされる機序を示しています。血管内皮の損傷は、過剰な免疫活性によって特徴づけられる炎症反応を結果的に起こしてしまいます。図2Bは、COVID-19に合併する可能性のある静脈性および動脈性の血栓症を示しています。

図2
Appendix 1

従来から知られていたコロナウイルス感染症の重症化の病態は、図1の様に考えられています2)。急速なウイルス複製と盛んな炎症性サイトカイン/ケモカイン応答によってまず起こるのは、肺上皮および血管内皮細胞消滅をもたらすことになります。インターフェロン-αβおよびインターフェロン-γは、炎症細胞浸潤を導き、気道および肺胞の上皮細胞の細胞死を惹き起こします。さらに炎症性の単球-マクロファージによって放出される腫瘍壊死因子も、肺上皮および血管内皮細胞両者の細胞死を助長させることになります。上皮細胞および血管内皮細胞の細胞死によって、肺の毛細血管と肺胞上皮細胞の隔壁が破綻して、血管漏出と肺胞浮腫が導かれ、最終的に低酸素血症が生じることとなります。

また、もう1つの重症化の病態として考えられているCOVID-19に特徴的な血栓症の発症機序は、図2のように考えられています3)。図2A は、ACE2 受容体を介して細胞内にSARS-CoV-2が侵入することで始まる血管内皮の損傷によって、びまん性内皮炎が引き起こされる機序を示しています。血管内皮の損傷は、免疫反応の亢進やサイトカイン・ストーム(嵐)によって特徴づけられる炎症反応を惹き起こし、その結果、血液凝固能の亢進や血栓症が生じることとなります。図2Bは、COVID-19に合併する可能性のある静脈性および動脈性の血栓症を示しています。

3. 体力や血管内皮機能等に対する運動の効果

(詳細機序はAppendix 2を参考に)

広義の体力に関しては、以前より図3の様に考えられています。一般的には体力というと体力測定で行われる項目のみを考えがちですが、それらは身体的要素-行動体力-機能の体力をみているだけになってしまいます。今回のようなCOVID-19 禍で必要不可欠になってくる体力は、身体的要素-防衛体力-機能-免疫(あるいは抵抗力)、つまり感染症に対する免疫機能-抵抗力ということになります。

図3

これまでに多くの研究者達が、慢性的な運動トレーニングがヒトの心身に及ぼす効果に関して、多数報告しています。そのうちDiazら4)の報告を表1に供覧しています。表中に記述されている中で、酸化ストレス、炎症反応、レニン・アンギオテンシン系活性、アドレナリンおよびエンドセリン受容体刺激に対する血管反応を各々低下あるいは減少させ、血管内皮機能を高めること、これらは皆COVID-19 の重症化予防に慢性的な運動トレーニングが有用であることを示唆しているように考えられます。

表1

また急性運動(1回の運動)や慢性的な運動トレーニングが、ヒトの凝固・線溶系に及ぼす影響に関しても、多くの研究者達が報告しています。そのうちChen ら5)は、炎症過程や血栓形成における運動の影響に関する多数の報告をレビューし、以下の様にまとめています(図4):①座位生活は慢性疾患や早期死亡の危険因子であり、強い予測因子である。②高強度運動の反応においては、血栓傾向状態を引き起こすことになる。③定期的な運動や日常的生活活動は、抗炎症性媒介線溶系活性を増進することで、全ての原因による死亡を予防する。④低強度のレジスタンス運動もまた、炎症性過程を減弱させ、線溶系の特徴を増強させることによって、血栓形成に対して有用な役割を果たす。

図4
Appendix 2

これまでに多くの研究者達が、慢性的な運動トレーニングがヒトの心身に及ぼす効果に関して、多数報告しています。そのうちDiazら4)の報告を表1に供覧しています。表中に記述されている中で、酸化ストレス、炎症反応、レニン・アンギオテンシン系活性、アドレナリンおよびエンドセリン受容体刺激に対する血管反応を各々低下あるいは減少させ、血管内皮機能を高めること、これらは皆COVID-19 の重症化予防に慢性的な運動トレーニングが有用であることを示唆しているように考えられます。

また急性運動(1回の運動)や慢性的な運動トレーニングが、ヒトの凝固・線溶系に及ぼす影響に関しても、多くの研究者達が報告しています。そのうちChenら5)は、炎症過程や血栓形成における運動の影響に関する多数の報告をレビューし、以下の様にまとめています(図4):①座位生活は慢性疾患や早期死亡の危険因子であり、強い予測因子である。②高強度運動の反応においては、炎症は単球性組織因子産生を助長し、血小板の過剰な反応を誘発し、フィブリノーゲンの生合成をもたらし、微粒子形成や赤血球凝集を促進して、血栓傾向状態を引き起こすことになる。③一方、定期的な運動や日常的生活活動は、炎症性サイトカインの産生を抑制し、抗炎症性媒介物質や抗酸化物質の発生を増強し、そして線溶系活性を増進することで、全ての原因による死亡を予防する。④低強度のレジスタンス運動もまた、炎症性過程を減弱させ、線溶系の特徴を増強させることによって、血栓形成に対して有用な役割を果たす。

4.COVID-19感染予防および重症化予防としての対策

(詳細はAppendix 3を参考に)

前述したように、定期的な運動トレーニングを行うことは血管内皮機能を高めること、そして凝固・線溶系バランスに好ましい効果を与えることが、多くの研究者から報告されています。これらの研究者のうちで、Sallisら6)は48440名のCOVID-19患者を対象にした研究を行い、日常的な運動習慣を有していなかった患者の方が運動習慣を有していた患者に比較して、入院を必要とした患者、ICU(集中治療室)入室を必要とした患者、そして死亡した患者のすべてにおいて有意に多かったと、報告しています。

また、Reynolds7)は、The New York Times紙上にて以下の様に述べています:

  • ①普段座位生活をしている人は、定期的に運動している人に比較してCOVID-19によって入院する、そして死亡にいたる可能性が非常に高かった。
  • ②とはいうものの、このことは、決して定期的に運動を行っている人はワクチン接種を受けなくともよいということを示唆している訳ではない。
  • ③ワクチン接種ができるまでは、定期的な運動はリスクをより低下させうる最も重要なことになる。

さらにこれまでの報告を概観すると、COVID-19を含めて多くの感染症の重症化に対して有効な運動内容は、中等度強度の有酸素運動を主として低強度レジスタンス運動を加えていくことだと考えられます。COVID-19を含めて感染症の重症化を予防するためには、もちろん運動トレーニングばかりでなく、適切な栄養摂取、そして睡眠を中心に適切に休養をとることも必要不可欠なことです。

Appendix 3

Appendix 1でも述べたように、COVID-19の重症化に関与していることの1つとして、炎症過程を介して気道や肺胞の上皮細胞および内皮細胞の細胞死がもたらされ、次いで肺の毛細血管と肺胞上皮細胞の隔壁が破綻して、血管漏出と肺胞浮腫を導き、最終的に低酸素血症がもたらされることが挙げられています。また、ACE2受容体を介して細胞内にSARS-CoV-2が侵入することで始まる血管内皮の損傷によって、びまん性内皮細胞炎を発症し、この血管内皮の損傷は免疫反応の亢進やサイトカイン・ストーム(嵐)によって特徴づけられる炎症反応を惹き起こし、その結果、血液凝固能の亢進や血栓症が生じることが挙げられています。

5.最後に

コロナ禍で忘れてならないことは、以下の点です。ステイホームは重要なことですが適切に運動習慣を維持することも重要なことです。密閉・密集・密接を避けられない状況であればマスク装着は必要ですが、3密を避けることが可能であれば暑い中で運動する時には熱中症予防のためにマスクを外すことも考慮しましょう。オーバートレーニング症候群では逆に感染症に罹患しやすくなるので、運動トレーニングが過剰にならないようにしましょう。水分やタンパク質を含めて栄養摂取にも気を配ることが必要不可欠なことです。

生活習慣を良好に保って個人免疫を獲得し、ワクチン接種で集団免疫を獲得しましょう。これらに加えてCOVID-19に対する治療薬が開発されるならば、公衆衛生上万全な状態と言えるかと思います。それまでは個人の努力と公的な支えの両者が必要不可欠なことなのでしょう。

今後も感染症を含めて多くの疾病が発生し、流行することでしょう。重要なことは生活習慣を高いレベルでバランスのとれた状態にしておくことです。これらは自己努力以外の何物でもありません。ランニング、ジョギング、ウォーキング、自分自身に適切な運動を見つけ、継続していきましょう。

引用文献

  • 1) World Health Organization Web Annex. (2021) COVID-19 Clinical management: living guidance, 25 January 2021.
    https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-clinical-2021-1
  • 2) Channappanavar R. and Perlman S. (2017) Pathogenic human coronavirus infections: causes and consequences of cytokine storm and immunopathology. Semin Immunopathol. 39: 529-539
  • 3) Godoy L C. et al. (2020) Anticipating and managing coagulopathy and thrombotic manifestations of severe COVID-19. CMAJ. 192: E1156-E1161
  • 4) Diaz K M. and Shimbo D. (2013) Physical activity and the prevention of hypertension. Curr Hypertens Rep. 15: 659-668
  • 5) Chen Y W., Apostolakis S., and Lip G Y. (2014) Exercise-induced changes in inflammatory process: implications for thrombogenesis in cardiovascular disease. Annals of Medicine. 46: 439-455
  • 6) Sallis R. et al. (2021) Physical inactivity is associated with a higher risk for severe COVID-19 outcomes: a study in 48440 adult patients. Br J Sports med. Online ahead of print. doi: 10.1136/bjsports-2021-104080.
  • 7) Reynolds G. (2021) Regular exercise may help protect against severe covid. New York Times. Published April 14, 2021, Updated May 12, 2021.
    https://www.nytimes.com/2021/04/14/well/move/exercise-covid-19-working-out.html

(編集・協力)鈴木立紀、藤牧利昭