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運動習慣、心肺持久力はCOVID-19による入院リスク、死亡リスクを下げる

肥満より運動不足の方が、リスクが大きい?
―データバンクに登録されたデータの解析から―

2021年10月12日
藤牧利昭

概略

日常的な運動実施状況や心肺持久力と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化との関係について、データバンクに登録されたデータを解析した4つの研究結果を紹介します。

研究1)米国CDC(Centers of Disease Control and Prevention疾病予防管理センター)Weekly Reportで、238の病院、3,242,649人のデータベースから、BMI(body mass index)とCOVID-19の重症化リスクの関係が報告され、「肥満」が、COVID-19重症化リスクに関わりがあることが裏付けられました。

研究2)運動実施状況について、日常の運動実施状況を調べた48,440人のデータを解析した研究では、常に運動している群は、全くしていない群やときどき運動する群に比べ、重症化リスクが低いことが示されました。

研究3)約50万人のデータから、心肺持久力と重症化との関係を解析した研究では、心肺持久力が高ければ、COVID-19による死亡リスクがより低くなるという傾向が示されました。

研究4)地区の医療機関でトレッドミル心肺持久力テストを受けた約2万人について解析した研究では、入院した人と比べ、入院まで至らなかった人の方が、心肺持久力が高いことが明らかとなりました。また、心肺持久力レベルが同じなら、肥満はリスク要因にならないことも示唆されています。

研究1)の結果は、現在広く理解されている結果です。

これに対し、研究2)~4)は、それぞれのデータベースの中から、条件に合うデータを抽出して解析したものですが、3つに共通するのは、注目すべき結果でした。すなわち、運動習慣があること、心肺持久力が高いことは、新型コロナウイルスの感染リスクを下げるわけではないが、入院、死亡などの重症化リスクは下げる可能性が高いということです。運動不足は、世界的に重大な健康リスクであるとともに新型コロナウイルス対策としても注視すべきと警鐘を発してきた研究者は多いのですが、実際の研究データで示されたことに意義があります。

さまざまなリスク要因がありますが、「運動不足」は、自分の意志で変容できるリスク要因です。

日常的にランニングに親しんでいる方々の多くは、「運動不足」の心配はなく、CDCの身体活動ガイドラインを満たしていると考えられます。ランニング実践でさまざまな健康効果が得られますが、ランニング量を増やして感染症の重症化リスクをさらに減少させることまでは期待しにくいと考えられますので、無理のないランニングが推奨されます。

また、僅かな運動実施でも重症化リスクが下げられると考えられますので、ランニング経験の浅い人や運動不足気味の人は、「全くしないより良い」と考えましょう。ただし、継続することは重要です。

適度なランニングは、COVID-19の重症化予防だけでなく、延命を含む健康上の効果が期待できますので、自分に合った無理のないランニングを継続することをお勧めします。

1)COVID-19重症化リスク(肥満)

コロナ禍は、1年半以上を経過し、世界各国からさまざまな研究データが報告され、情報が整理されつつあり、どんな対策が有効かについても明らかになりつつあります。

重症化リスクに関与する因子としては、年齢(高齢)や基礎疾患などがありますが、その1つとして、米国CDCはWeekly Report1)で、肥満の重症化リスクについて報告しています。238の病院、3,242,649人のデータベースから、BMIとCOVID-19の重症化リスクの関係が報告されました。全対象者のうち、COVID-19と診断された成人は、148,494人、入院した人は、71,491人、入院しICU治療を受けた人は34,896人、入院し死亡した人は8,348人でした。また、全対象者のうち、過体重(BMIが25~29.9)の人は28.9%、肥満(BMIが30以上)の人は43.1%でした。入院した人についてみると、過体重の人は28.3%、肥満の人は、50.8%であり、入院した人には肥満者が多い結果でした。(注:ここでいう過体重は、我が国では肥満に分類されます)

BMIと入院率の関係についてみると、両者の間には、Jカーブ(一方の数値が上昇するにつれて、他方の数値は先ずは減少し、ある点から上昇に転じる)の関係がみられ、BMI 24.2(kg/m2)の時に、もっとも入院率が低く、それ以上では入院率が徐々に高くなっていきます。BMIとICU治療、BMIと死亡についても同様の関係にあり、それぞれBMIが25.9、23.7で最も低く、それ以上では高くなりました。「肥満」が、COVID-19重症化リスクに関わりがあることが裏付けられました。

2)運動実施状況との関係

先の本学会が作成した提言の中では、身体活動がCOVID-19重症化を防ぐことを説いていますが、そこで触れられた「日常の運動実施状況とCOVID-19重症化」の関係について、改めて紹介します。

Sallisらの研究グループ2)は、南カリフォルニア地区の医療保険のデータバンクa)に登録されたデータから、COVID-19と診断され、日常の運動実施状況も調べられた48,440人のデータを解析しました。

日常の運動実施状況は、医療機関受診時に、習熟した医療アシスタントか看護師が、質問することにより調べられています。受診者の、直近2か月以上の運動状況について、「中程度から活発な運動(moderate to vigorous)を週何日実施しているか」「平均して何分実施しているか」を質問し、両項目の結果から週当りの運動実施状況を算出し、運動バイタルサイン(EVS:exercise vital sign)として、データバンクに登録しています。

対象者の平均年齢は47.5歳、BMIの平均は31.2でした。また、8.6%(4,236人)が入院し、2.4%(1,199人)がICU治療を受け、1.6%(771人)が死亡しました。

研究では、EVSにより、対象者を、全く運動しない群(週平均10分以下)、常に運動している群(米国CDCの身体活動ガイドラインを満たす週平均150分以上)、ときどき運動する群(10分以上150分未満)の3群に分けています。EVSにより、全く運動しない群に分類されたのは14.4%(6,984人)、常に運動している群に分類されたのが6.4%(3,118人)、ときどき運動する群に分類されたのは79.2%(38,338人)でした。

運動の実施状況(EVS)に依って比較すると、全く運動しない群では、入院率、ICU治療率、死亡率の全てにおいて他の2群より該当する率が高く、常に運動している群と比べると、入院率が2.26倍、ICU治療率が1.73倍、死亡率が2.29倍になっていました。全く運動しない群と、ときどき運動している群を比べると、入院率、ICU治療率、死亡率は、それぞれ1.20倍、1.10倍、1.32倍でした。また、ときどき運動する群は、常に運動する群に比べ、入院率が1.89倍、ICU治療が1.58倍、死亡率が1.88倍でした。

すなわち、常に運動している群は、全くしていない群やときどき運動する群に比べ、明らかに重症化リスクが低いことが示されました。ときどき運動する群でも、全く運動しない群に比べ、重症化リスクが低い傾向にあることが明らかになりました。

3)心肺持久力との関連(1)

前述の研究では、「運動の実施状況(運動習慣)と重症化リスク」の関係を明らかにしましたが、運動習慣によって高められる「心肺持久力」とCOVID-19重症化のリスクとの関係を調べた研究もあります。

Christensenらのグループ3)は、約50万人のデータが登録されている英国バイオバンク(UKB)b)からデータを抽出し、心肺持久力とCOVID-19重症化との関係について分析しました。

UKBに、新型コロナウイルスPCR検査のデータがある13,502人の内で、心肺持久力テスト(CRF:cardiorespiratory fitness)の結果が登録されている2,722人を抽出し、データが不十分な人を除く2,690人のデータを分析した結果です。2,690人のうち、PCR陽性者は346人でした。

CRFは、自転車エルゴメーターを用いた最大下テストから予測最高心拍数に対応する運動強度を求め、その強度に相当する酸素摂取量(eVO2 max)を推定CRF(eCRF:estimated CRF)として対象者を分類しました。

対象者は、eCRFの値によって、性別、年齢別(10歳区切り:例えば50~60歳)に、同性、同年代の低い方から20%に入る低位群、20~80%に入る中位群、80%以上の高位群に分けられました。

全体の平均年齢は70歳で、陽性者の平均年齢は67歳でした。また、BMIは全体で28.2、陽性者では28.9でした。

全対象者のeVO2 maxの平均値は陽性者と比較しても差がありませんでした。またeCRF低位群と、中位群、上位群で、新型コロナウイルス感染リスクを比較しても各群の間に有意な差はなく、心肺持久力が新型コロナウイルス感染リスクに影響するとは考えられませんでした。

一方、心肺持久力とCOVID-19による死亡リスクの関係についてみると、eCRF低位群に比べ、中位群、上位群は、死亡リスクが有意に低いことが認められました。中位群の死亡リスクは低位群の 0.43倍、上位群では、低位群の0.37倍でした。また、上位群は、中位群より、死亡リスクが低い傾向にあり、心肺持久力が高ければ、COVID-19による死亡リスクがより低くなるという傾向が示唆されました。

4)心肺持久力との関連(2)

また、Brawnerらの研究グループ4)は、2016年から4年の間に、デトロイトのHenry Ford Hospitalで、心肺持久力テスト(CRF)を受けた21,196人の受診者のうち、2020年2~5月に、新型コロナウイルスPCR検査を受けた人のデータを分析しました。心肺持久力テスト、PCR検査のデータがあり、BMIのデータが無い人などを除外して、1,181人のデータを分析しました。PCR陰性が935人、同陽性が246人でした。

CRFは、トレッドミルでの運動負荷テストで、多くはBruce法で行われました。テスト中止基準のサインが出るまで最大努力で行い、最大仕事量に相当するエネルギー需要量(peak METs:peak metabolic equivalents of task)を持久力の指標としています。

医学的な検査の結果や、運動負荷テストの結果は、逐次、データベースに入力され、蓄積されていきます。したがって、運動負荷テストを実施した時期とPCR検査を受けた時期には差があり、平均で2.1年でした。

陽性者246人の年齢は、59±12歳、42%が男性、75%が黒人で、BMIは32±7でした。peak METsと新型コロナウイルス感染リスクとの関係についてみると、両者の間に統計的に有意な関連は認められませんでした。

246人のうち、入院したのは、89人(36%)、入院期間は平均13日(1~57日)で、さらに、28人(11%)が平均6日のICU治療を受け、8人(3%)は人工呼吸器を付け、13人(5%)が死亡しました。

PCR陽性者のうち、入院した人と入院まで至らなかった人の心肺持久力を比較すると、入院した人のpeak METsが6.7METsであるのに対し、入院まで至らなかった人では8.0METsであり、入院まで至らなかった人の方が、心肺持久力が有意に高いことが明らかとなりました。心肺持久力と入院リスクの関係には、peak METsが、1高くなれば(最大酸素摂取量が3.5ml/kg・min高くなることに相当)入院リスクが13%下がるという関係性が認められました。

また、この対象者は、全体として肥満傾向にある(平均BMIが32±7)のですが、心肺持久力を考慮すると、「肥満者は入院リスクが高いとは言えない」「心肺持久力レベルが同じなら、肥満はリスク要因にならない」ことが示唆されています。(図参照)

図 心肺持久力と入院リスク(肥満者と非肥満者の比較) 文献4)より

5)まとめ、推奨されるランニング

上記、研究2)~4)の結果に共通するのは、運動習慣があること、心肺持久力が高いことは、新型コロナウイルスの感染リスクを下げるわけではないが、入院、死亡などの重症化リスクは下げる可能性が高いということです。また、運動実施の量が多ければ、心肺持久力が高ければ、それらのリスクがより低くなるということです。運動不足は、世界的に重大な健康リスクであるとともに新型コロナウイルス対策としても注視すべきと警鐘を発してきた研究者は多いのですが、実際の検査データで示されたことに意義があります。

これらの研究結果からは、具体的に、どんな運動が良いのか、どの程度まで行うのが良いのかは、明らかになっていません。

CDCの身体活動ガイドラインでは、ウォーキングなど軽い運動では週150分以上、ジョギングやランニングでは、週75分以上実施することが推奨されています。日常的にランニングに親しんでいる方々の多くは、この基準を満たしていて、「運動不足」の心配はないと考えられます。

より速い速度でのランニングや、週75分を大きく超えて実施することが、さらにリスクを下げるかどうかは、明らかではありません。ランニングの健康効果などについてまとめた研究5)によれば、ランニング実践によりさまざまな健康効果が得られるものの、ランニング量が多ければより効果が大きいわけではなく、最もランニング量の多いグループでは、その効果が小さくなるとされています。すなわち、ランニング量を増やして感染症の重症化リスクを減少させることは期待しにくいと考えられますので、無理のないランニングが推奨されます。

一方、ランニング経験の浅い人や運動不足気味の人は、CDCの身体活動ガイドラインは気にする必要はありません。僅かな運動実施でも重症化リスクが下げられると考えられます。そもそも、最低限度の運動量をエビデンスとして示すのは容易ではありませんが、上記の研究に関わった研究者の多くがインタビューなどで答えているのは、「たとえ僅かの運動でも、全くしないより良い。」ということです。「大切なのは、Get off the Couch!(ソファから立とう!)」という学者もいます。

ただし、僅かの運動でも、継続することは重要です。肥満者の減量のためには、運動課題自体の「キツさ」や、モティベーションなどに配慮するため、運動を間欠的(intermittent)に行うことが良いという研究データ6)もあり、フィットネスジムの経験豊かな指導者が、減量クラスで実践している例もあります。肥満の方、低体力の方、ランニング経験の浅い方には、ゆっくり走ること、持続的に走ることは容易ではありませんので、短時間のジョギングを間にウォーキングを挟んで繰り返す間欠ジョギングが推奨されます。

健康上のリスクファクター(危険要因)は多種多様ですが、変容しうるファクター、変容しにくいファクターがあり、年齢のように変容できないファクターもあります。運動不足は、冒頭で紹介した肥満と比べても、自分の意志で変容しうるリスクファクターであり、より影響力が強いファクターです。

適度なランニングは、COVID-19の重症化予防だけでなく、延命を含む健康上の効果が期待できますので、自分に合った無理のないランニングを継続する(運動習慣)ことをお勧めします。

参考

a) この研究は、総合医療保険会社カイザーパーマネンテ南カリフォルニア(Kaiser Permanente Southern California:KPSC)が実施した。地区(住民470万人)の医療機関に提供する総合的な電子健康記録(EHR)を使用している。EHRでは、入院患者、外来患者ほかの対象者の検査結果、医療保険利用状況、診断記録等をリンクさせている。

b) UKBは、入院患者や外来患者のうち、病気に関する重要な研究のために、自身のデータが活用されることに同意した人達の大規模なバイオメディカルデータベースで、詳細な遺伝および健康情報、基礎的な教育や民族属性、既往歴等を含むさまざまな情報が蓄積されています。2006年から2010年に、当時40~69歳の英国人約50万人が登録しています。

データベースは定期的に追加のデータで増強され、最も一般的で生命にかかわる病気に関する重要な研究を行うために、許可された(英国内外の)研究者は、研究リソースとして、そのデータにアクセスでき、個々の患者等に許諾を受けることなく、データを分析することが出来ます。これは、現代医学と治療の進歩に大きく貢献し、人間の健康を改善するいくつかの科学的発見を可能にしました。

心肺持久力テストの結果(CRF)は、途中からUKBに追加され、95,000人余のデータがあります。COVID-19については、2020年3月に追加されました。

1) Kompaniyets L. et al. (2021) Body mass index and risk for COVID-19-related hospitalization, intensive care unit admission, invasive mechanical ventilation, and death - United States, March-December 2020. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 70(10):355-361

2) Sallis R. et al. (2021) Physical inactivity is associated with a higher risk for severe COVID-19 outcomes: a study in 48440 adult patients. Br J Sports Med. 55(19):1099-1105

3) Christensen R A G. et al. (2021) The association of estimated cardiorespiratory fitness with COVID-19 incidence and mortality: A cohort study. PLoS One. 16(5):e0250508

4) Brawner C A. et al. (2021) Inverse relationship of maximal exercise capacity to hospitalization secondary to coronavirus disease 2019. Mayo Clin Proc. 96(1):32-39

5) Lavie C J. et al. (2015) Effects of running on chronic diseases and cardiovascular and all-cause mortality. Mayo Clin Proc. 90(11):1541-1552

6) Coquart J B. et al. (2008) Intermittent versus continuous exercise: effects of perceptually lower exercise in obese women. Med Sci Sports Exerc. 40(8):1546-1553

(編集・協力)豊岡示朗、鈴木立紀