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身体活動はCOVID-19ワクチンの接種効果を高めるか？
— これまでの身体活動とワクチン接種効果に関する研究成果から考える —
2021年11月8日
宮本由記
1．はじめに
これまでランニング学会のHPでは身体活動とCOVID-19の関係性や、コロナ禍での身体活動について発信してきました。今回は「身体活動はCOVID-19ワクチンの接種効果を高めるか？」をテーマに、これまでの身体活動とワクチン接種効果に関する研究成果から考えていきたいと思います。
2．身体活動はワクチンの接種効果を高めるか？
英国グラスゴーカレドニアン大学のシャスティンらは身体活動が免疫系、ワクチンの接種効果を高めるか等について文献を複数調査分析して検討しています1)。
得られた結果を筆者らは以下3点をキーポイントとしてまとめています。
キーポイント
身体活動とワクチン接種効果に関する研究成果としては③が該当します。
分析に用いた90件の研究のうち、6件の研究がワクチン接種の結果が身体活動の実施の有無によって違いがあるかどうかを調査していました。
H1N1型、H3N2型、インフルエンザB型、肺炎球菌（および水痘帯状疱疹ウイルス）の身体活動を実施した群と実施しない群による抗体価**)の違いを調べた2)3)4)5)6)7)ものでしたが、トレーニング内容の中央値***)はワクチン接種の前20週にわたり有酸素運動または有酸素運動とストレングストレーニングの組み合わせを含む週3回、60分間でした。身体活動を実施した群の方がワクチン接種後の抗体価が上がっている結果となりました。
*) 中等度から高強度の身体活動の例：有酸素運動（ウォーキング、ランニング、サイクリング）または有酸素運動とストレングストレーニングの組み合わせ
**) 抗体価：病原体など異物（抗原）に対して対抗する物質（抗体）の力価（量や強さ）
***) 中央値：例えば、15人のデータなら上から8番目のように全体で真ん中の順位に当たる値
3．COVID-19ワクチンと身体活動
スペインのバレンズエラらは、身体活動が新型コロナワクチン接種の効果を高める可能性があるとしています8)。
今まで行われてきたインフルエンザワクチン接種に対する身体活動の影響などの研究を見ると、身体活動がワクチン接種の効果（抗体価や免疫反応）を高めることはすでに報告されており9）、ワクチン接種前の短期間の身体活動であっても、抗体価の上昇が見られている報告もあります。適度な身体活動を習慣化することで、さらに効果が高まると考えられます。
一方、加齢に伴って起こる免疫系の段階的な障害（免疫老化）は、高齢者において、感染リスク、罹患率、死亡率（ウイルス感染によるものを含む）を増加させる実質的な原因です。しかし、免疫老化は習慣的な身体活動により、その老化スピードを遅らせることも明らかにされています。
したがって、高齢者であっても適度な身体活動を習慣化することで免疫老化が抑制され、ワクチン接種の効果がより高められると考えられます（図）。
今回の新型コロナワクチンは実用化されてまだ日が浅いことから、この新しいワクチンに対する運動の効果はまだよく解っていません。過去のインフルエンザワクチンなどでの身体活動を実施することの効果を検討しましたが、新型コロナワクチンの形状にはmRNAであるなど今までのワクチンと異なる部分があるため、今までのワクチンでの身体活動を実施することによって得られた結果が新型コロナワクチンには当てはまらないかもしれません。今後予防接種が迅速に進んでいる国などで改めて身体活動を行うことの新型コロナワクチン接種効果に対する影響を検討した疫学データの収集が必要です。
予防接種を超えて、現在のパンデミックは私たちに予防的なライフスタイル対策の重要性を教えてくれました。 ソーシャルディスタンス、良好な衛生状態、ロックダウンは確かに必要ですが、身体活動も大切です。
4．まとめ
今後新型コロナワクチン接種に対する習慣的な身体活動の効果を検討する必要はありますが、今までの予防接種に対する身体活動の効果を考えると習慣的な身体活動は予防接種の効果を高める可能性があるといえます。
新型コロナワクチンの接種は強制ではなく本人の意思に基づき行われます。接種を希望する場合に接種可能かどうかはかかりつけ医と相談してください。厚生労働省のホームページ10）には、接種した当日の激しい運動は控えるように記載されています。ワクチンによる副反応は人により様々ですので翌日以降の運動は体調を見て再開するようにしましょう。
文献
1) Chastin S F M. et al. (2021) Effects of Regular Physical Activity on the Immune System, Vaccination and Risk of Community-Acquired Infectious Disease in the General Population: Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Med. 51(8):1673-1686. doi: 10.1007/s40279-021-01466-1
2) Kohut M L. et al. (2005) The exercise-induced enhancement of influenza immunity is mediated in part by improvements in psychosocial factors in older adults. Brain Behav Immun. 19(4):357–366. doi: 10.1016/j.bbi.2004.12.002
3) Hayney M S. et al. (2014) Age and psychological influences on immune responses to trivalent inactivated influenza vaccine in the meditation or exercise for preventing acute respiratory infection (MEPARI) trial. Hum Vaccin Immunother. 10(1):83–91. doi: 10.4161/hv.26661
4) Kohut M L. et al. (2004) Moderate exercise improves antibody response to influenza immunization in older adults. Vaccine. 22(17-18):2298-2306. doi: 10.1016/j.vaccine.2003.11.023
5) Woods J A. et al. (2009) Cardiovascular exercise training extends influenza vaccine seroprotection in sedentary older adults: the immune function intervention trial. J Am Geriatr Soc. 57(12):2183-2191. doi: 10.1111/j.1532-5415.2009.02563.x
6) Long J E. et al. (2013) A life-style physical activity intervention and the antibody response to pneumococcal vaccination in women. Psychosom Med. 75(8):774-782. doi: 10.1097/PSY.0b013e3182a0b664
7) Irwin M R., Olmstead R. and Oxman M N. (2007) Augmenting immune responses to varicella zoster virus in older adults: a randomized, controlled trial of Tai Chi. J Am Geriatr Soc. 55(4):511-517. doi: 10.1111/j.1532-5415.2007.01109.x
8) Valenzuela P L. et al. (2021) Physical activity: A coadjuvant treatment to COVID-19 vaccination? Brain Behav Immun. 94:1-3. doi: 10.1016/j.bbi.2021.03.003
9) de Araújo A L. et al. (2015) Elderly men with moderate and intense training lifestyle present sustained higher antibody responses to influenza vaccine. Age (Dordr). 37(6):105. doi: 10.1007/s11357-015-9843-4
10) 新型コロナワクチンQ&A、「ワクチン接種後、生活上で注意することはありますか。」、厚生労働省ホームページ、2021年11月1日閲覧 https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0043.html
（編集・協力）伊藤静夫、鈴木立紀、藤牧利昭