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東京マラソンレース直前ワンポイントアドバイス
2024年4月11日
ランニング学会副理事長 藤牧利昭
ランニング学会理事 髙田由基
ランニング学会は東京マラソンEXPO2024にブースを設置し、出場ランナーへの情報提供やサポートを実施しました。そこで配布した資料をご紹介します。
●レースまでの準備(カーボローディング、予防のテーピング)
しっかりと食事を摂りましょう。出来れば炭水化物(Carbohydrate:米、麺類、パン、パスタなど)を多目に。アルコールは、控えるのが無難です。睡眠もしっかりと取りましょう。興奮して眠れないかも知れませんが、床について眼を閉じるだけでも・・・。
膝などに違和感等がある場合は、予防的にテーピングやサポートタイツを使用するのも良いでしょう。関節の不安定性に対しては非伸縮性テープ、筋の違和感に対しては伸縮性テープが有効です。ただし、強い痛みがある場合や、日頃テーピングを使用していない方は十分な注意が必要です。
●前半と後半=貯金と借金
自分の走力を冷静に判断し、無理のないペースが理想です。後半に備え、前半を少し速めに走る(後半に備えて貯金)ランナーもいますが、後半に失速し、貯金分の数倍のロスが出るのが一般的です(実は借金で利息が・・・)。前半を控え目に走り、ペースダウンを最小限に抑えるのが有効です。
東京マラソンでは、ペースセッターが用意されていますので、有効に活用しましょう。
●心拍計の活用
無理なく走れているかどうかを客観的に確認するのは心拍計を装着し、心拍数で管理するのが有効です。マラソン中の目標心拍数は、最高心拍数の65~80%程度とされています。
ただし心拍数は個人差が大きいので、日頃のトレーニングで、自分にとって無理のない心拍数が判っていれば、それを採用しましょう。なお、気温が高い場合やレースの後半には、心拍数は少し高くなるのが普通です。
●乳酸閾値(LT)とTalk Test
マラソンを走り切るには、走行中に乳酸が上がっていかないレベル(乳酸閾値=LT)で走ることが重要です。LT以上のペースでは、走行持続が困難になります。LTを知る実用的な方法として、Talk Testがあります。走行中に一文を話してみます。その時息継ぎが必要かどうかでLTレベルを推測できます。簡便ですが、コロナ禍で有名になった米国CDCでも、Moderate Exercise, Vigorous Exerciseの分類に使っています。
●給水、栄養補給=Hitting the Wall対策
喉の渇きに応じ、適宜、給水しましょう。水分を補給せずに脱水になるのは問題ですが、飲み過ぎも好ましくありません。
栄養補給も大事です。後半、30km過ぎ辺りから、空腹感を覚え、急激に走れなくなることがあります。Hitting the Wallと言われ、エネルギー不足です。自分に合った食べ易いものを携行することをお勧めします。
●筋痙攣(けいれん)=(足などが)つること
走行中に筋痙攣の兆候を感じたら、スペースを見つけるか、走路の端でストレッチをしましょう。一番起こり易い下腿背面(ふくらはぎ)は、腓腹(ひふく)筋とヒラメ筋の2種類のストレッチを行いましょう。いわゆる「アキレス腱伸ばし」ですが、腓腹筋ストレッチは膝を伸ばし(左)、ヒラメ筋ストレッチは軽く膝を曲げます(右)。ストレッチの数分間を惜しんで走り続けると、その後に深刻な筋痙攣を起こし、大きなタイムロスに繫がりやすくなります。
●ウォーク・ブレイク(Walk Break)
レース後半には、疲労蓄積や筋肉痛で多くのランナーが歩き出します。走れなくなってから歩き出すと大きなタイムロスになります。その対策として、ウォーク・ブレイクがあります。レースの序盤から、疲労や筋肉痛に関わらず、一定の時間(距離)毎に計画的に歩行を入れる(例:5分走ったら1分歩く)ことです。ウォークとランでは、筋の使われ方が異なり、ウォークの間に筋疲労が軽減するので、結果的に良いタイムでフィニッシュ出来るとされています。
(参考)「ジェフ・ギャロウェイのランニングブック」有吉正博ほか訳 大修館書店2015
●途中リタイアの判断基準
マラソンは、言うまでもなく、ハードなスポーツで、当日の気象条件、走行ペース、体調などによって、重篤な問題になることもあります。体調異変を感じたら、十分に注意しながら走行し、次のような兆候が見られたら途中リタイア(棄権)を考えましょう。
- 胸が締めつけられる
- 動悸、いつも以上に強い息切れがする
- 脈の乱れを感じる
- 頭痛や、目眩(めまい)がする
- 吐き気がする
- 汗が出る(暑さによる発汗でなく)
- 脚全体・全身が痙攣する(つる)
- (筋疲労でなく)脚がもつれる
- 筋肉や関節に激痛が起こる、腫れる
●「確かな知見」とは(エビデンスとエクスペリエンス)
最近、多くの場面で、エビデンス(実証データに基づく科学的根拠)が求められますが、スポーツ競技は状況が多様なので、条件が整った実証データが十分にあるとは言えません。一方、経験豊富なアスリートの経験(エクスペリエンス)は貴重ではありますが、それをそのまま他の人に適用できるとは限りません。
そこで、実証データやベテランの経験を、フィールド研究の成果、指導経験、既知の科学理論などと照合し、多面的に考察して得られるのが『確かな知見』と言えます。
(参考)「ランニング事典」ランニング学会訳 大修館書店1994