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適度なランニングとは -健康・長寿、感染症予防の視点から-

2020年11月9日
追記 2020年11月12日

はじめに

春には、多くのスポーツイベントが中止されましたが、感染予防の徹底や無観客の導入など、さまざまな工夫の元、徐々にスポーツイベントが再開されつつあります。

ランニング学会ではこれまでに、第一の提言として「外出自粛要請時のランニング愛好者への皆様のお願い」、第二の提言として「緊急事態宣言解除後における、ランニング愛好者への皆様のお願い」、そして、第三の提言として「新しい生活様式におけるランニング」を発表してきました。第三の提言では、「集団走」でのリスク軽減の工夫を提示すると共に、「生涯スポーツ」という視点から、「適度なランニング=余裕ある速度で無理のない時間走る」ことで、免疫機能を改善することも重要であることを提言しました。

今回は、健康・長寿、感染症予防の立場から『適度なランニング』について提言します。「適度」を考える上で、ベースとなるのは、2018年に、米国疾病予防管理センター(CDC)が発表した「身体活動ガイドライン」です。CDCのガイドラインでは、運動をLight(軽い)、moderate(中等度の)、vigorous(活発な)、heavy(激しい)に分類し、健康長寿に繋がる運動習慣として、moderateの運動を週に150~300分、またはvigorousの運動を75~150分行うのが望ましいとされています。先進国の多くでは、半数の方(米国では、おそらく70~80%)が、この水準に達していないと考えられますが、より多くの人に運動習慣を身に付けて欲しいという観点から、「示した水準に達しない範囲でも、運動を行えば健康効果がある」とする見解を示しています。「走らないよりは、僅かでも走れば、健康改善のメリットがある」ということです。

適度の指標、簡便な目安

どの程度がmoderateか vigorousかを考える実用的で簡便な目安としてTalk Testがあります。①lightは運動しながら歌も唄える、②moderateは運動しながら自由に会話ができるが歌までは唄えない、③vigorousは運動しながら会話はできるがしばしば息継ぎが必要になる、④heavyは運動中に会話するのが難しい、というものです。

ランニングでは、走りながら普通に会話できる(にこにこペース)ならmoderate、会話はできるが息継ぎが必要ならvigorousになります。

それぞれの方の走力やランニング経験の度合いにより「適度」が変わってきますので、経験者を対象とした『ベテランランナーへ』と、『初心者ランナーへ』の二種類を用意しました()。

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ジョギングやランニングを生活の中に定着させているベテランランナーは、概ね、CDCの提唱する「身体活動ガイドライン」の推奨値を満たしていると考えられます。

一方で、近年新たに、「心血管系オーバーユース」が注目されるようになりました。その点も含めて、「適度なランニング」について考えてみます。

過度なランニング

近年、我が国をはじめ、多くの国で、大規模なマラソン大会が開催され、多くのランナーに関する情報が蓄積される中で、「運動し過ぎ」が注目を集めるようになりました。ベテランランナーには、vigorousより上のheavyに相当する強度で、かつ量的にも推奨基準を超えて走っている人が少なくないと思われます。

「ランニングと寿命」を扱ったさまざまな研究を総合的にみると、「ランニングの実践には、確かな延命効果があるものの、ランニング実施量が最も多いグループでは、延命効果が小さくなる」ことが明らかとなっています。延命には、さまざまな要因が関与するので、「走り過ぎは悪い」とまでは言い切れないものの、「過度に走ることは、ベターとは言えない」というのが、多くの研究者の見解です。

週当り4.5時間、週走行距離30マイル(約48km)を上限(1マイル9分(1km6分35秒)を想定)とする研究もあります。同じ距離を走っても、走速度が速ければ、運動強度は高くなりますので、1マイル8分(1km5分)以内で走る場合は、時間または距離を短くすることが求められます。

また、走り過ぎにより、ランナー膝などの整形外科的なオーバーユース障害が起こることはよく知られていますが、心血管系にもオーバーユース障害が起こる可能性は否定できません。

走力を高め、走成績を改善することを目標とするランナーには、ランニング量を抑えることに抵抗があるかも知れませんが、「健康状態を改善し、健康長寿に繋げる」という視点で、自身の「走り過ぎ」のリスクを見直してみることも必要でしょう。

感染リスクの回避

長い距離を速く走った後は、一時的に免疫のはたらきが悪くなるOpen-Window(窓が開いた状態=感染しやすい状態)になります。このOpen-Windowに関しては、「あくまで一時的なものであり、やがて回復するので、ランニングに対する生理的な応答である」という考え方もありますが、感染症のリスクを回避するには、激しいランニング(ポイント練習)の後は、次に激しいランニングを行うまでには十分な時間(48時間)をとり、その間に適切な栄養補給と十分な休養をとることが推奨されます。筋力トレーニングでは、中1日空けて行うことが広く知られていますが、強度のランニングも同様と考えられます。

適度の指標、簡便な目安

ランナーの場合、持久力・走力によって、どの程度(1km何分)のランニングが適度なのかが変わってきます。

最大酸素摂取量や無酸素性閾値(乳酸閾値)、あるいは最高心拍数が実測できていれば、それをもとに、「最大酸素摂取量の60%」、「乳酸閾値の90%」、「最高心拍数の75%」などに相当する強度を用いるのが有効です。ただし、最高心拍数として、年齢からの推定値を用いると誤差が生じる可能性もあります。また、エアロバイク運動中の心拍数から最大酸素摂取量を推定する方法も誤差が小さくありません。

簡便でありながら有効な目安として、「共通」の稿で示したTalk testがあります。走りながら会話をするのが難しければ、vigorousの範囲を超えていますので、健康増進のためのランニングとしてはキツ過ぎることになりますし、フルマラソン完走には速過ぎるペースです。また、一人で走る場合には自覚的運動強度(RPE)を指標としてもよいでしょう。代表的なRPEの指標であるBorg Scaleでは、運動強度を6(安静)から20(最大努力)の範囲で点数化していますが、そのうち、9(かなり楽である)、11(楽である)、13(ややきつい)程度の強さが目安となるでしょう。その他、心拍計を装着して走り、Light、moderate、vigorous、heavyの境界に相当する心拍数をチェックしておくことは、トレーニング管理上、意味があります。

ランニングの目的再考

ランニングを愛好する方々にとって、フルマラソンを走り切ることは、大きな達成感があります。また、トレーニングを積み、サブ4(フルマラソンを4時間以内で走ること)やサブ3(同3時間以内で走ること)に到達したランナーは、仲間から敬意を表されます(社会的承認)。そうした達成感や社会的承認を得るために、多少の無理をしてもよいと考える方もいるでしょう。しかしながら、無理なトレーニングを継続すると、ランニングによる延命効果が低下するというデメリットがあることは承知しておく必要があります。

一方、ランニングに取り組むことで、多くの方は体重の適正化に努め、禁煙し飲酒量を抑制するなど、ライフスタイルが健康的に変容していきます。健康的なライフスタイルを獲得することで日々の生活が充実し、延命効果も期待できることは、ランニングの成果として素晴らしいものです。

フル完走の達成感やサブ3で仲間から賞賛を浴びるのも十分に価値がありますが、「あなたがランニングに取り組む目的は何か」を改めて見つめ直すことも意味があると思われます。

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ランニングの継続

近年、我が国をはじめ、多くの国で、健康・長寿のために、あるいは大規模マラソンへの参加を目指してランニングに取り組む人が増えています。しかしながら、「思ったより辛い」あるいは「膝などに痛みが出る」などの理由で、数ヶ月以内に中断する人は少なくありません。ランナーの中には、走り過ぎが原因で、ランナー膝などの整形外科的なオーバーユース障害が起こることが知られていますが、ランニングに取り組み始めた方では、走る距離が少なくても、さまざまな要因でランニング障害が起こることがあります。確かな指導者の指導を受けて取り組むことをお勧めするとともに、膝などに違和感がある場合は、早めに整形外科を受診することをお勧めします。

どんなランニング?(感染リスクの回避)

初心者ランナーでは、走った後に一時的に免疫のはたらきが悪くなるOpen-Window(窓が開いた状態=感染しやすい状態)となることがあります。このOpen-Windowに関しては、いくつかの見解がありますが、感染症のリスクを回避するには、走って疲労した後は、次にランニングを行うまでに十分な時間(48時間)をとり、その間に適切な栄養補給と十分な休養をとることが推奨されています。筋力トレーニングでは、中1日空けて行うことが広く知られていますが、ランニングも同様と考えられます。

適度の指標、簡便な目安

ベテランランナーでは、「1km何分のペース」ということで強度を設定することもできますが、初心者ランナーでは難しいと思います。 

初心者ランナーには、「共通」の稿で示したように、走りながら普通に会話できるmoderate(にこにこペース)をお勧めします。初心者ランナーには、ランニング中の会話は難しくvigorousに相当するかも知れませんが、走り慣れてくると、会話できるようになりますので、目安として覚えておくと良いでしょう。ベテランランナーにも共通する目安です。

間欠的ランニングの勧め

経験を積んだランナーでは、走る速度を変えることで、強度を調整することができますが、初心者ランナーにとっては、「ゆっくり走る」こと、「楽に走る」ことは難しいものです。

そんな方には、間欠的ランニングをお勧めします。「少し走ったら歩き、また走る」です。例えば「20秒走ったら40秒歩く」あるいは「1分走って1分歩く」を繰り返します。走る時間と歩く時間の比率を変えることで強度の調整ができます。運動不足の方は「ウォーキングの途中に5秒ほどの小走りを入れる」から始めても良いでしょう。肥満の改善には間欠的ランニングが有効というデータもあります。「走らないよりは、僅かでも走れば、健康改善のメリットがある」ということです。

ランニングの目的

ランニングに取り組み始めた方にとって、フルマラソンを走ることは大きな魅力がありますが、短期間で達成できる目標ではありません。一方、「5kmでもよいので大会に出てみよう」と目標にすると、体重を適正に近づけようと努力したり、食生活や疲労回復に気を配ったりするようになり、さらに、禁煙や飲酒量の抑制などを考えることで、ライフスタイルが健康的になっていきます。健康的なライフスタイルを獲得することで日々の生活が充実し、延命効果も期待できることは、ランニングの成果として素晴らしいものです。

ランニングを通じて、健康長寿や生活の充実について考えてみることも意味があると思われます。

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*(2020年11月12日追記)

ランニングを実践されている方には、長きに亘り継続されている方、アスリート級のトレーニングを実施している方、仲間とのコミュケーションを楽しみにしている方、外出自粛以降新たに取り組み始めた方、等々、さまざまな方がいらっしゃいます。

今回は、「ベテラン:veteran」と「初心者:beginner」とさせていただきましたが、ロンドン・マラソンのサイトには、「beginner」向け「training plan」の他に、向上を目指す「improver training plan」、「experienced runner」向けの「advanced training plan」が掲載されています。ランニング学会でも、今後、さまざまな方の、さまざまなランニング場面を想定した提言を発信できるよう努めていく所存です。